ワルツとメヌエット。どちらも三拍子の舞曲で、ピアノを習っていれば早い時期に一度は出会う曲です。でも、この2つの違いを聞かれると、意外と言葉に詰まりませんか。
レッスンで、こんな場面があるかもしれません。音は合っている。テンポも悪くない。でも何かが違う。そこで「もう少しワルツらしく」と声をかける。生徒さんはうなずいて、もう一度弾く。……ほとんど変わらない。
これは生徒さんの感受性の問題ではないと、私は思っています。「らしく」という言葉が、先生の頭の中にしかない像を指しているからです。
楽譜の上では、ワルツもメヌエットも同じ4分の3拍子です。では、何を手がかりに弾き分ければいいのでしょうか。
私はフランスに住み、ピアノを弾き、フォルマシオン・ミュジカル(フランス式の音楽基礎教育)の考え方で音楽を教えています。この夏からは、舞曲のリズムをテーマにした全6回のオンライン講座を続けてきました。その経験から、この記事では次の3つをお話しします。
- ワルツとメヌエットの、よく言われる違い。そして、それを覚えても弾き分けられない理由
- 弾き分けるときに、私が最初に見る手がかり
- 「ワルツらしく」の代わりに、レッスンでかけられる言葉
ワルツとメヌエット、よく言われる違い
まずは、よく紹介される違いを表で確認しておきます。
| メヌエット | ワルツ | |
|---|---|---|
| 生まれた場所 | 17世紀半ば、フランスの宮廷 | 18世紀後半、ドイツ語圏の庶民の踊りから |
| 栄えた時代 | ルイ14世の時代から18世紀 | 19世紀のウィーンを中心に |
| 踊り方 | 一組ずつ、周りに見られながら踊る | 男女が組んで、くるくる回りながら踊る |
| 性格 | 格調、端正 | 開放感、流れ |
| 名前の由来 | フランス語(由来には諸説あり) | ドイツ語の walzen(ヴァルツェン/回る)から |
| よく出会う曲 | バッハの『アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳』の小品、モーツァルトの初期作品など | ショパンのワルツ、シュトラウス一家のワルツなど |
メヌエットは宮廷で、ワルツは庶民のあいだで。生まれた場所も、時代も、踊る目的もまったく違います。メヌエットはフランス革命で宮廷が消えるとともに踊られなくなっていきましたが、ワルツは今も社交ダンスとして続いています。
テンポについては、「メヌエットはゆっくり、ワルツは速い」と書かれることもあります。ただ、実際の曲はどちらもかなり幅があり、速いメヌエットもゆっくりのワルツもあります。テンポだけで区別しようとすると、かえって迷うことになります。
知識を覚えても、弾き分けられないのはなぜか
さて、この表を覚えたとします。「メヌエットは宮廷の踊りだから、上品に弾こう」。
では、その「上品に」は、楽譜のどこを、どう弾くことなのでしょうか。
ここで手が止まってしまう方は多いと思います。宮廷の踊りだったという知識は正しい。でも、それだけでは指がどう動けばいいのかまではわかりません。生徒さんに「宮廷の踊りだから上品に」と伝えても、返ってくるのは、たいてい少し弱く、少し慎重になっただけの演奏です。
理由はシンプルで、ワルツとメヌエットの違いは、楽譜に書かれていないところにあるからです。
- 1拍目に、どのくらい重さが乗るのか
- 何小節でひとまとまりと感じるのか
- 体が、踏み込むのか、回るのか
拍子記号も音符も同じ顔をしています。違いは、その曲がもともと持っていた「体の動き方」の側にあります。
これは、以前の記事に書いた「時代の弾き分け」と同じ構造です。特徴の一覧は文法書のようなもので、文法書を読んでも、その言葉を話せるようにはなりません。
→ ピアノの時代の弾き分けは「聴く」から|4期の「らしさ」を育てるフランスの授業
では、楽譜に書かれていない違いを、どこから見つければいいのでしょうか。
最初に見るのは「何小節でひとまとまりか」
私がワルツとメヌエットを弾き分けるとき、最初に見るのは何小節でひとまとまりかです。
メヌエットは、2小節でひと組
メヌエットは、2小節でひと組です。
1、2、3、1、2、3、と数えて、その6拍でいちど収まります。1小節ずつではなく、2小節で一歩。そしてまた次の2小節。
2小節ごとに、足がいちど地につく。だからメヌエットには、急がない、端正な印象が生まれます。
ワルツは、4小節でひと弧
ワルツはどうでしょう。
ワルツは「1小節ごとに、ズン・チャッ・チャッ」と説明されることが多いと思います。それも間違いではありません。でも私は、ワルツは4小節でひとつの弧を描く音楽だと考えています。
1小節ずつ区切らずに、4つの小節がつながって、ひとまわりする。
1小節ごとに「ズン」と区切ってしまうと、ワルツはどこか足踏みをしているように聞こえます。4小節をひとつの流れとして感じると、音楽が前へ転がりはじめます。
同じ三拍子でも、息を継ぐ場所が違うのです。メヌエットは2小節ごとに、ワルツは4小節ごとに。これがわかるだけで、同じ3/4の楽譜が、ずいぶん違って見えてくるはずです。
なお、実際の曲はすべてがこの通りにできているわけではありません。フレーズが伸びたり縮んだりする曲もありますし、作曲家が意図的に崩しているところもあります。だからこそ、「基本の形」を知っておくと、崩れたところがどこなのかに気づけるようになります。
区切りを示すのは、メヌエットは左手、ワルツは右手
では、この「2小節」「4小節」というまとまりは、楽譜のどこに表れているのでしょうか。
おもしろいことに、ワルツとメヌエットでは、まとまりを示している手が違います。
メヌエットは、左手が区切りを作る
メヌエットでは、2小節の区切りを作っているのは、多くの場合左手です。
メロディーのある右手は目立つので、つい注意がそちらに向きます。でもメヌエットでは、右手だけをいくら丁寧に弾いても、2小節ごとの「収まり」はあまり変わりません。区切りを作っているのは、バスの動きや和音の置き方、つまり左手の側だからです。
ためしに、メヌエットの左手だけを弾いてみてください。2小節ごとに、左手がどこで落ち着いているか。右手と一緒に弾いていたときには気づかなかった区切りが、意外なほどはっきり聴こえてきます。
ワルツは、右手のメロディーが4小節を描く
ワルツでは、話が逆になります。
ワルツの左手は、1小節ごとに「ズン・チャッ・チャッ」をくり返すことが多いですよね。この形は、1小節ずつの拍を刻むのは得意ですが、4小節のまとまりまでは教えてくれません。
4小節のひと弧を示しているのは、むしろ右手のメロディーです。メロディーが4小節かけてどこから立ち上がり、どこへ向かって、どこでひとまわりするのか。その線を追うと、ワルツのまとまりが見えてきます。
だからワルツでは、左手の「ズン・チャッ・チャッ」に引っぱられて1小節ずつ区切ってしまわないことが大切です。左手が刻む1小節の上に、右手が4小節の弧を描く。その重なりが、ワルツの流れを作っています。
フォルマシオン・ミュジカルでは、楽器に向かう前に、まず体で拍やまとまりを感じることを大切にします。足踏みで三拍子を感じてから、ピアノの前に座る。片手ずつ弾いてまとまりを聴くのも、その延長にあることだと私は考えています。
「ワルツらしく」の代わりにかける言葉
ここまでの話を、レッスンの言葉に置き換えてみます。
| よく使う言葉 | 代わりにかけられる言葉 |
|---|---|
| 「メヌエットっぽく」 | 「2小節ごとに、いちど足が地につく感じで」 |
| 「もっと流れるように」 | 「メロディーが4小節で、ひとつの円を描くつもりで」 |
| 「ワルツらしく」 | 「1拍目にふっと重さを乗せて、そこから前へ転がるように」 |
| 「(メヌエットを)もっと上品に」 | 「左手だけ弾いてみて。どこで落ち着いている?」 |
「らしく」「っぽく」「上品に」は、先生の中にある像をそのまま指す言葉です。生徒さんの中にまだその像がなければ、伝わりようがありません。
一方、「2小節ごとに」「4小節で円を描く」は、生徒さんが自分で確かめられる言葉です。何小節目で何をすればいいのかがわかるので、演奏がその場で変わります。
最後の「左手だけ弾いてみて」は、答えを言わずに気づいてもらうための問いかけです。生徒さんが自分で「あ、ここで区切れている」と見つけると、それは先生に言われたことよりずっと長く残ります。
では、なぜ2小節で、なぜ4小節なのか
ここまでで、ワルツとメヌエットの違いを「何小節でひとまとまりか」で見る方法をお話ししました。
ただ、ここまで書いても、まだ半分なのです。
なぜメヌエットは2小節でひと組なのか。なぜワルツは4小節でひと弧なのか。その理由は、楽譜の中ではなく、それを踊っていた人の体の側にあります。
この理由がわかると、「2小節ごとに」「4小節で」という言葉に、根拠が加わります。生徒さんに「なぜそう弾くの?」と聞かれたときに、自信を持って答えられるようになります。
ただ、この部分は文章だけではとても伝えにくいのです。実際の音を聴き、同じ曲を弾き比べ、できれば椅子に座ったままでも少し体を動かしてみる。そうすると、何行も説明するより一瞬でわかります。
そこで、この続きをオンラインの講座でお話しすることにしました。
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メヌエットとワルツの違いを、1時間でお話しする無料のオンライン講座です。この記事で書いた「2小節」「4小節」の理由を、音と体を使ってお伝えします。
こんな方に
- メヌエットとワルツの違いが、いまひとつわからない方
- 生徒さんに、曲の特徴を言葉で伝えられずにいる方
- 舞曲の指導に、根拠を持たせたい方
- バロックから古典期の曲の指導を深めたい方
お話しすること
- 舞曲とは何か(歴史的な背景)
- 三拍子の「重力」と、メヌエットの格調
- ワルツの旋回感と、流れのつくり方
- 生徒さんへの伝え方
日時(いずれも日本時間・内容は同じです。ご都合のよい回をお選びください)
- 10月12日(月)21:30〜22:30
- 10月14日(水)21:30〜22:30
- 10月16日(金)12:00〜13:00
形式:Zoom(顔出しなしでご参加いただけます)
参加費:無料
定員:各回12名
特典:講座の内容をまとめたPDF資料を、後日お送りします
アーカイブ配信の予定はありません。当日、ライブでご参加ください。
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まとめ
- ワルツとメヌエットの違いは、歴史やテンポの知識だけでは弾き分けにつながらない。違いは、楽譜に書かれていない「体の動き方」の側にある
- 最初に見る手がかりは「何小節でひとまとまりか」。メヌエットは2小節でひと組、ワルツは4小節でひと弧
- まとまりを示しているのは、メヌエットでは左手、ワルツでは右手のメロディー。片手ずつ弾いてみると、区切りが聴こえてくる
「ワルツらしく」の代わりに、「4小節でひとつの円を」。次のレッスンで、ぜひ一度試してみてください。生徒さんの演奏がどう変わったか、聞かせていただけたらうれしいです。
同じ三拍子でも、マズルカはまた別の重心を持っています。ワルツとマズルカの違いは、こちらの記事に書きました。
→ ワルツとマズルカ その演奏における違い
ワルツ・メヌエット・マズルカをざっと見比べたnoteもあります。
→ 三拍子色々
私はフランスで暮らしながら、フォルマシオン・ミュジカルの考え方をオンラインでお伝えしています。なぜメヌエットは2小節で、ワルツは4小節なのか。その答えを、10月の無料講座で、音と一緒にお届けします。