楽曲分析というと、五線譜を広げて和声を確認し、楽曲形式や調性、リズムの変化などを理論的に整理するイメージがあるかもしれません。確かに、それらは音楽を深く理解する上で欠かせない要素です。しかし、忘れてはならない最も根本的なスタート地点があります。それは「聴くこと」です。耳を通して音楽に触れ、自分の感覚で受け止めることこそが、楽曲分析の第一歩なのです。
では、なぜ聴くことから始めるのでしょうか?
譜面を読む力や理論的な知識は、音楽を分析する上で必須とされていますが、それらはあくまで「補助的な道具」です。音楽の本質は、目ではなく「耳」で感じるもの。リズムの揺らぎ、微細なニュアンス、演奏者の呼吸感や感情のうねり――これらは譜面には書ききれない、生の音からしか得られない情報です。
こういう風にお話しすると「あれ?分析って作曲者の書いたものを触るんでしょ?」と思われることでしょう。確かにその通りですが、音になった時にどう聴こえるかということも分析の鍵になるのです。楽譜よりも先に「音」があるのです。
「聴く」といっても、ただ流し聴きするのと、意識的に分析しながら聴くのでは、得られる情報の質がまったく異なります。楽曲分析を目的とする場合は、楽譜を見ながら「どうなっているのか?」を考えつつ聴きます。最近はYouTubeの動画に楽譜を載せている演奏があるので、手元の楽譜ではなくて動画を見ながら聴くのもありですが、気づいたことをメモするには手元の楽譜を見る方がいいと思います。
耳での観察を重ねつつ楽譜を確認すると「あの感じはこういう仕組みだったのか」と根拠ある理解につながります。逆に、先に譜面を見ると理論的な枠組みに引っ張られ、文字通り「理屈で分析する」こととなってしまいますよね。音楽は本来、理屈より先に「感じる」もの。だからこそ、楽曲分析の第一歩として、「じっくり聴くこと」をお勧めします。
そのためには、音楽をじっくり聴く力が不可欠となります。本格的な楽曲分析ではなくても、楽譜を見ないで聴いて、ある程度のものを掴めるようになれると、楽曲分析がグンと楽になりますよ。
分析のために音楽に向き合うとき、つい知識や技術に頼りたくなります。それが「楽曲分析は苦手、嫌い」という気持ちにさせてしまうのではないかとも思います。
でも、音楽の最も素朴な入口は、「耳を傾けること」です。まずは五感のひとつである「聴覚」を研ぎ澄まし、心で感じる。そこから得られる発見から、楽曲分析を始めてみませんか?