絶対音感というと「全ての音の高さを絶対的にわかって、間違いがないもの」という印象があるかと思います。そして、音楽というと絶対音感というくらいに音楽のプロフェッショナルではない人にも知られている能力です。

あなたは絶対音感を持っていますか?持っていないとしたら持っている人に憧れたことはありますか?フランスでも音楽が専門ではない人の間では絶対音感というのは憧れの対象であるような印象を持っています。実際、とある音楽愛好家向けの無料講座で絶対音感について言及しています。

今日は、一部の人に憧れの眼差しで見られる能力、絶対音感について私が思うことを書いてみようと思います。

絶対音感と対になる単語は相対音感ですよね。絶対音感と相対音感のどちらが音楽的かというと、相対音感なのです。相対音感で音をわかる方が音楽をより楽しめるし、演奏もより音楽的になるのです。絶対音感は音楽をやる上で必要不可欠なものではありません。むしろ、絶対音感だけ持っていると邪魔になるケースもあるのです。

そもそも、絶対的という形容詞がこの音感についての認識を歪めているように思います。

長い歴史の中で楽音の高さは変化していて、現代のオーケストラはA=440Hzか442Hzが主流です。そしてオーケストラによってはもう少し高い音律を使うところもあります。 つまり、音の高さそのものが絶対的ではないのです。またピアノは平均律で調律されますが、旋律楽器は同じドの音でもそのドの意味によって微妙に音の高さが変化します。平均律のドレミそのものが楽音の中で絶対的ではないのです。

また、絶対音感を持っているという人の絶対音感の定義そのものが実は曖昧です。ピアノの一定の音域のラベルづけができるというだけで絶対音感を持っているという人もいれば、かなりの楽器の幅広い音域でドレミのラベルづけができる絶対音感所持者もいます。

私は長年ピアノという楽器を弾いて、おそらく先天的に絶対音感を持っていたと思われます。なぜならピアノを習いに行って、鍵盤と楽譜のそれぞれの位置の関係を教わって、ドレミが読めたらピアノの音がドレミで聴こえるようになったのです。母の話では、ピアノを習う前から正確な音程で歌っていたそうです。また、絶対音感をつけるための教育というものは一切受けたことがありません。

そんな私が大人になって、バロック音楽にハマってバロック音律で演奏される曲を聴いた時、どうやってもドの音がシの音に聴こえて始めの頃は違和感だらけでした。聴くだけならまだしもA=415Hzで演奏されるチェンバロを弾く時には「楽譜と音の関係が結びづかない」ことで苦労しました。最初に取り組んだのが主に通奏低音だったため「さあ、主和音だ」と思った時に、半音下の鍵盤を弾きたくなるといった感じでした。

それを弾けるようになりたいと必死で耳を改善した結果、相対音感が強くなってきて、バロックの音律を聴くとラベルづけにスイッチが入るようになりました。ただ、この感覚を身につけたら時折バロック音律ではない、ロマン派以降の作品の演奏を聴いて、バロック音律でのドレミのラベルづけをするようになるという、ちょっと迷惑なオマケがついてしまいました。それは意識の切り替えの問題や、体調など外的要因もあるのだとは思いますが、それでもピアノの場合は間違いがないというちょっと不思議な絶対音感になりました。

ピアノの場合は間違いがない理由としては、弦楽器や管楽器は演奏によって音律が違う楽器だからスイッチがうまく入らないことがあるのだと思います。チェンバロは現在一般に使われているものは両方に対応できるものとなっていますが、ピアノはそういうカラクリもないというのが理由かなと思います。

絶対音感は、音のピッチがわかることであって実はラベルづけができることではないのかもしれません。ただ、楽音だと一瞬というものがあるのでラベルづけで認識できたとしているということは考えられます。

絶対音感があると邪魔になるケースとしては、移調楽器である管楽器を演奏する時もあります。藝大のクラリネット専攻の絶対音感持ちの人が「A管が苦手」と言ってました。A管への苦手意識がA管を避けて通ろうとする、そして苦手なままという負のループに陥っていたようです。

そもそも、絶対的といわれても、実は定義が曖昧な絶対音感、なくても楽器の演奏はできます。むしろ後からいくらでも訓練できる相対音感を育てる方がよっぽど音楽を楽しめますし、基準音からの音の関係がわかることから、音が狂っても狂ったなりの対応を取れるようになります。

そのためにはまず音をよく聴くこと。その音と次の音の距離を測れるような練習をすることで相対音感が身につきます。私はバロック音律を身につけたいと思った時、小学校のリコーダーを半音下に設定して(管の重なる部分が短くなるので楽器としては不安定になるので、やる時は注意してくださいね)、吹いて音を出してドレミを頭に叩き込みました。同時に歌う練習もしました。

今ではこのちょっと不思議な絶対音感に満足しています。